忘れ物がないか注意しないでください

忘れ物がないか、注意しないでください。

そう呼びかけているわけじゃない。

呼びかけているわけじゃないのに、保育園児から大学の先生から、どうしてみんな、こんなにほくほくに忘れ物をしてくのか。

ハンカチ、リップスティック、コイン、スマホ充電のケーブル、カメラのバッテリー・・・

もう、このくらいで、ぼくの心はピクリとも動かない。

中には、斧とか、車中泊用の敷ふとんを忘れていった人もいる。

なのに、誰もまとまったお金は忘れていかないから不思議だ。

そうそう。ふとんを忘れた「博士」はそれっきり、まだ取りに来ていない。会いたいから、早く取りに来てね。

人はなぜ忘れ物をするのか、というぼくの問いに、しっかりほくほくに忘れ物をしていった大学の先生は毅然とした態度で「後ろは振り返らない。前を向いて進んでいるからだ」と答えた。なんてすがすがしいんだ。ほくほくでは、忘れ物をする人のことを敬意を込めて「フォーゲッターズ」と呼ぶ。

忘れ物を見つけるとぼくは「あ、またこの人と会えるな」と思う。だから、ほくほくでは「忘れ物ないか、注意してくださいね」とは言いません。フォーゲッターズに幸あれ。また会いましょう。（斎藤健一郎）