2025-04-24

【イベントリポート】三つの暮らしに「自給知足」を学ぶ

今回のイベント(2025年4月19~20日)はエコハウスツアーでした。テーマは「自給知足」。これは、虫草農園のわたなべあきひこさんがつくった言葉です。
ここをクリックすると、虫草農園のサイトにジャンプします。

「できることは自分でやる。お金に頼らず、便利さを追い求めるだけでは手に入らないもうひとつの幸せに気づく。そして、欲望がどこまでも広がる中で、便利さに“見えない線”を引くこと」それが「自給知足」だと、わたなべさんは言っています。

そんな思想を、“体感”できた今回のイベントを川合英二郎がリポートします。

今回の企画は、ほくほくメンバーであり、NPO法人太陽光発電所ネットワーク(PV-Net)の佐藤博士(ひろし)さんによるものです。群馬に住む博士さんの仲間たちから「一度ほくほくを訪れてみたい」との声が寄せられていたことに応え、博士さんが楽しく学べる内容を考えてくれました。

【1日目】
① 金山デッキ

金山デッキは建築家 中村勉さんによる設計。屋根が山並みに馴染むよう変形している。

長野県茅野市湖東金山地区にある「金山デッキ」は、元環境事務次官であり、東京大学教養教育高度化機構の客員教授でもある小林光さんのご自宅です。誰が住んでいるか伏せておいても、建物の至るところから“インテリジェンス”がにじみ出ていました。

UA値0.32の外皮性能に、8.8kWの太陽光発電と23kWhの蓄電池を備え、エネルギー自給率は260%。これだけ聞くと、近未来のサイボーグのような住まいを想像してしまいますが、建築家・中村勉さんの設計は、そんな“最強スペック”の建物を自然素材でくるみ、風景にやさしくなじませています。

窓の向こうには八ヶ岳、霧ヶ峰に加え乗鞍岳、木曽御嶽山などが広がります。日射、眺望、防災性、そして蚊がいない?という環境まで、すべてが整ったロケーションに、まるで包み込まれるようでした。

「余った電気を地域でシェアする実証実験もしていきたい」と話す小林さんの姿勢は、「足る」だけでなく「余る」からこそ分け合える、“進化した自給知足”を感じさせました。

そして印象的だったのは、小林さんはどんな質問にも、「それは、とてもいい質問ですね」と、必ず一言そえてから、丁寧で簡潔な説明を始めます。プライベートスペースとリビングを仕切っている身長よりもずっと高い本棚の前で小林さんの話を聞いていると、自分も“インテリジェンスの一部”になったような気分になりました。

小林光さんのレクチャータイム。気分は東大生?

今回の訪問はPV-Net代表理事の都筑 建さんのご紹介で実現しました。当日体調の都合で、参加できなかった都筑さんに改めて感謝です。

② チームシェルパ
お昼は、ほくほくメンバーおなじみの「チームシェルパ」へ。店主の片桐京子さんがひとりで切り盛りするカフェ兼駄菓子屋です。小さな橋を渡って鋭角に曲がり駐車場に向かうと、予定より少し遅れて到着した僕たちをデッキで待つ、京子さんの姿がちらっと見えました。

駐車スペースの中央には堂々と、イオ(竪穴式住居)が建っています。しかし、小川と高木に囲まれているので、自然に溶け込んでいます。

ぼくたちはスパイスが効いているけど優しい味のランチを楽しみました。オープンスペースでみんなと談笑していると、ほんの少し前にいた金山デッキの心地よさが、チームシェルパの心地良さに上書きされているようです。

チームシェルパのタコ麺。美味しいよ

京子さんは一級建築士の資格を持っています。レトロ感がある店舗は、中古の電柱などで建てた車庫を店舗に改装したものです。しかもセルフビルドです。屋根上には太陽光発電がのり、お店に電気を供給しています。そして、太陽が南アルプスの稜線に隠れると閉店です。

太陽光発電に合わせてお店を営業しているのではなく、京子さんのペースで営業しています。

祝日に関係なく、営業日は金、土、日、月。そして、冬眠することもあります。働き者だからこそ、自分に必要な休みを取り、リピーターもはじめてさんもゆっくり過ごしてもらえるぐらいのお客さんの数がちょうどいいという考え方は、「自知足」にあっているように思いました。

③ 八ヶ岳エコハウス「ほくほく」
まずは、斎藤健一郎さんのお話です。東京電力の原発事故を福島で体験したことを期に、原発を保持する電力会社の電気を極力使わない暮らしを実現したのが「5アンペア生活」です。節電の実践を経て、築40年の空き家をゼロエネルギー化するエコリノベーションをして、ほくほくは生まれました。リノベのために集まった仲間、その後に出会った仲間たちとほくほくの暮らしを普及する活動、ほくほくNEXTは続いています。

何度聞いても胸を打たれる「ほくほくストーリー」は、子どもの頃、結果が分かっているのに何度も読み返した“ももたろう”のようです。

ほくほく物語講演中

でも、ももたろうと決定的に違うのは、東京電力も、健一郎さんも実在していることです。ほくほくのリノベを担った梶原建築の梶原高一さんは“犬”、ワークショップ皆勤で今回のイベントの企画をした博士さんは“猿”、ぼくは飛び回っているから“キジ”でしょうか。みな、いまを生きています。

“知足”とは、“足るを知る”ことです。しかしほとんどの日本の住まいは「断熱気密が、“足りていないことを知る”」段階ではないでしょうか。そう思いつつ、いつも言葉にはできないでいます。

この日、虫草農園のわたなべあきひこさんもほくほくを初訪問し、一緒に健一郎さんの話を聞き、農園訪問前日のレクチャーをしてくれました。わたなべさんもゼロエネルギーの第一人者です。ほくほくを見ながらメモを取ったり、質問をしたりする一方で、ぼくたちの説明が足りないところを優しくフォローしてくださいました。

博士さんによる朝食講義。食材は博士農園率80%

 

【2日目】
④ 虫草農園
そして、クライマックスはほくほくと同じ、山梨県北杜市にある「虫草農園」です。

農園と聞いて、野菜の育て方の見学かと思いきや、太陽光発電、太陽熱温水器、電気自動車、バイオディーゼルトラクター、バイオトイレ、虫、寄生虫・・と話が尽きません。道路を挟んですぐ目の前に見える農園エリアに行くまでに1時間以上かかりました。

今回の参加者も、ホストのわたなべさん、そしてほくほくメンバーも好奇心あふれる子どものようです。いっしょになってはしゃぎたい気持ちをぐっと抑えて、元高校教師の博士さんは、見学の進捗と時計をにらみながら、生徒の引導役をしていました。

虫、草、小動物、菌、野菜、わたなべさんも。全部そろって農園です。

改めて、「自給知足」とは、限りない欲望の中にある便利さに、見えない線を引くことです。
言葉を作ったわたなべさんは、金銭の欲望を持たない代わりに、お金を使わずに楽しく暮らすことには、そこにいた誰よりも“強欲”のようでした。

こんな学びの多い訪問でしたが、ぼくの記憶に一番残っているのは、わたなべさん宅の軒先にぶらさがる巨大なスズメバチの巣です。元々の住人であるスズメバチが去った後の空き巣に、今はスズメが暮らしていました。巣の壊れかけたところから出入りするスズメ一家と、廃品を見事に使いこなすわたなべさん一家の姿が、どこか重なっているように思えたのです。

繁忙期にも関わらず、時間を作ってくれたわたなべあきひこさん、さとみさん、さらさん、ありがとうございます。

スズメバチとは、巣にスズメが住むから?違います。

【編集後記】
イベント参加者、ほくほくメンバー、ホストに“サトウ”さんが5人、“サイトウ”さんが4人。20名弱が関わるイベントで、この重なりようはいったいなんだろう。イベント前日は、“まるげ”という隣町の粋な居酒屋で、博士さん、健一郎さんと乾杯したものの、正直不安でした。

でも終わってみれば、訪問先も参加者も、素晴らしく、ぼくたち主催者側にも多くの学びがある2日間でした。

イベント終了後、ほくほくに戻って、健一郎さんと後片付けをしながら、

「英二郎さん、パワーセーブするって言ってたくせに、だいぶ調子乗ってたよね。」

「群馬ガールズがのせてくるからだよ。セーブしてたんだって。最初は」

「それにしても、“はかせ”やり切ったよな。絶対昨日の夜、遅くまで竪穴式住居で語っていたはずだよな(博士さん愛称呼び捨てごめんなさい)」

などと話しをしていると、とっくに群馬に帰ったはずの博士さんがひょっこり戻ってきました。「博士さん、忘れものですか?」と笑って尋ねると、出汁を取ったあとの煮干しのような顔で「精算しないとだめでしょ」と一言。

眼鏡を鼻先にずらし、上目遣いで計算する姿に、生徒たちを無事に引率し、ボロボロになりながらも“きっちりやり切る”博士のすばらしさをあらためて感じました。あ、また呼び捨てごめんなさい。愛情です。

その後、Googleのスプレッドシートの話を博士さんにしようとしたのですが、全身から「やり切った今、俺に今後の話しても聞かないぞ。」というオーラが出ていたので、やめました。キャパオーバーをしながらも、“足るを知った”表情でした。(川合英二郎)

博士さんと群馬ガールズと京子さん

博士さん、本当にありがとうございます。訪問させていただいた金山デッキの小林光さん、虫草農園のわたなべあきひこさんも、どうもありがとうございます。(スタッフ一同、たぶん参加者全員)

 

チームシェルパの竪穴式住居の中で語る博士

 

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コメント1件

  • 佐藤猿橋広子 より:

    愛情あふれる素敵な記事ですね。備忘録になります。ありがとうございます。

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